信号発生器の用途別選び方:ファンクション・ベクトル・アービトラリの違いと現場別おすすめ

用途から逆算する信号発生器の選び方 ファンクション・ベクトル・RFの違いと現場別おすすめ
信号発生器(シグナルジェネレータ)は、電子回路の動作検証から無線通信機器の開発、EMC試験にいたるまで、現代の多様なものづくり現場に欠かせない重要な計測器です。しかし、いざ自社の環境へ導入しようとすると「ファンクションジェネレータやベクトル信号発生器など種類が多く、どれを選べばいいかわからない」「必要な周波数帯やスペックの基準が不明確」といった悩みに直面する開発者や購買担当者の方は少なくありません。
信号発生器の選定で失敗しないための鉄則は、実験室や生産ラインにおける「具体的な用途」から逆算して仕様を絞り込むことです。本記事では、実務でよく使われる信号発生器の主要な3種類の特徴を整理した上で、現場の用途に応じた実践的な選び方とおすすめの機種タイプを詳しく解説します。
信号発生器の3つの種類と特徴
計測器の世界で「信号発生器」と呼ばれる機器には、出力する波形の性質や対応する周波数帯によっていくつかの大分類が存在します。まずは、実務で頻繁に使用される代表的な3つの種類について、主な用途と基本的な特徴を把握しておきましょう。
| 種類 | 主な用途 | 特徴 |
|---|---|---|
| ファンクション/アービトラリ波形発生器(FG/AWG) | 回路評価・センサー模擬・電源試験 | 任意波形生成・コストパフォーマンス重視 |
| ベクトル信号発生器(VSG) | 5G・無線通信評価・変調信号生成 | AM/FM/IQ変調・高周波対応 |
| RFシグナルジェネレータ | EMC試験・受信機評価 | 高純度・低位相雑音 |
これらの違いを極めてシンプルに整理すると、ファンクションジェネレータやアービトラリ波形発生器(FG/AWG)は汎用的な電気信号や制御信号を作るのに適しており、ベクトル信号発生器(VSG)はスマートフォンやWi-Fiなどの高度な無線デジタル通信信号の模擬に特化しています。そしてRFシグナルジェネレータは、変調のない純粋でクリーンな高周波(サイン波)を極めて安定したレベルで出力することに強みを持っています。自社で評価したい対象が「電子回路そのものの挙動」なのか、「無線通信の品質」なのか、あるいは「電磁波への耐性」なのかによって、選ぶべき機材のスタートラインが大きく変わります。
用途別 選び方ガイド
ここからは、本記事のメインとなる現場別の具体的な4つの用途を挙げ、それぞれに求められる必要なスペックや実務上の選定ポイント、おすすめの機種タイプについて掘り下げて解説していきます。
用途①:アナログ・デジタル回路の開発・デバッグ
各種電子基板やアナログ・デジタル混在回路、組み込みシステムのデバッグ現場では、汎用性の高い各種信号源が必要とされます。
- 必要なスペック:正弦波、矩形波、三角波、パルス波といった基本波形の出力能力に加えて、実環境で発生するノイズ混入を再現するための「任意波形(アービトラリ)生成機能」が重宝します。周波数範囲は、一般的な回路基板の評価であればDCから30MHz程度をカバーしていれば十分に実務をこなせます。
- 選定ポイント:差動信号の入力や、クロック信号とデータ信号の同期など、複数箇所へ同時に信号を入れるケースが多いため「2チャンネル(2ch)出力」を標準で備えたモデルを選ぶのが賢明です。また、自動計測システムへの組み込みを考慮し、GPIBやUSB、LANなどの通信インターフェースの対応状況を確認するとともに、コストパフォーマンスを最重視した選定が基本となります。
- おすすめ機種タイプ:Keysight(キーサイト・テクノロジー)の33600シリーズや、Tektronix(テクトロニクス)のAFGシリーズなどが、操作性の高さと優れた信頼性から現場の定番として支持されています。
用途②:5G・無線通信デバイスの評価
5G(第5世代移動通信システム)の基地局・端末用コンポーネントや、Wi-Fi 6/7などの次世代無線通信デバイスの開発現場では、極めて精密な変調信号の生成能力が必須です。
- 必要なスペック:広帯域なIQ変調(直交振幅変調)に対応し、3GPPなどの国際的な最新通信規格に準拠した複雑なデジタル変調信号を忠実に出力できる性能が求められます。周波数帯については、Sub-6(サブ6GHz)の領域から、28GHz帯を超えるミリ波帯までを広くカバーできるスペックが要求されます。
- 選定ポイント:信号のブレや歪みを抑えるための「変調帯域幅の広さ」と、信号のピュアさを表す「低位相雑音(フェーズノイズ)特性」が最も重要な選定基準です。さらに、複雑な通信規格の波形パターンをボタン一つで作成できる「3GPP信号ライブラリ」などのソフトウェアオプションがライセンスとして有効化されているかどうかが、実務の作業効率を劇的に左右します。
- おすすめ機種タイプ:Rohde & Schwarz(ローデ・シュワルツ)のSMWシリーズや、KeysightのN5182Bシリーズといったハイエンドなベクトル信号発生器(VSG)が、この分野の開発現場におけるデファクトスタンダードとなっています。
用途③:EMC試験(放射イミュニティ)
電子機器が外部からの強烈な電磁波によって誤動作や破壊を起こさないかを評価するEMC試験、特に空間に電磁波を放射して耐性を調べる「放射イミュニティ試験」では、安定した強力な高周波信号源が不可欠です。
- 必要なスペック:主要な試験規格(CISPRやIEC 61000-4-3など)で広く要求される「AM変調(振幅変調)80%」を破綻なくかけられる機能が必要です。対応すべき周波数範囲は、一般的な商業用機器であれば80MHzから1GHz以上、車載品や防衛向けであれば数GHz以上までの対応が求められます。
- 選定ポイント:信号発生器から出力した信号をパワーアンプ(電力増幅器)で大きく増幅してアンテナから放射させるため、アンプへの過入力を防ぐための「正確で安定した出力レベル制御」と「低い高調波歪み」が重視されます。なお、イミュニティ試験を含めたEMC測定全体のシステム構成や必要な機器については、当サイトの別コラム EMC試験に必要な計測器は? でも詳しく解説していますので、参考にしてください。
- おすすめ機種タイプ:変調の正確性と高いレベル精度を誇る、各社の高品位なアナログRFシグナルジェネレータが好んで導入されています。
用途④:電源・モータ・パワーエレクトロニクス評価
電気自動車の車載インバータやパワー半導体、モータ駆動回路の開発現場では、電源ラインに生じる急激な電圧変動や瞬時停電、サージノイズを模擬したタフな環境試験が行われます。
- 必要なスペック:実環境の不規則な電源トラブルを完璧に再現するため、高度な「任意波形作成機能(AWG)」が必須です。周波数帯自体は、低周波領域から数十kHz〜数百kHz程度と比較的低い帯域がメインとなります。
- 選定ポイント:一般的な信号発生器の出力電圧は数V程度と小さいため、実際にデバイスを駆動させるには、高電圧・大電流を出力可能な「高速バイポーラ電源(4象限出力電源)」や「増幅器(パワーアンプ)」とシームレスに組み合わせて使用することが大前提となります。過渡応答の評価においては、過渡的な挙動を正確にトリガして捕捉するために、データロガーやオシロスコープとの高度な同期・システム連携性能が重要な選定ポイントになります。
周波数範囲×用途 早見表
信号発生器を選ぶ上で、最も機器の価格やサイズ、スペックを大きく左右するのが「必要となる周波数範囲」です。オーバースペックな高周波モデルは大幅なコストアップを招くため、自社の測定対象に見合った最適なレンジを見極めることが肝要です。以下に、用途と周波数範囲、推奨される機器タイプの関係を早見表としてまとめました。
| 用途 | 周波数範囲 | 推奨タイプ |
|---|---|---|
| 回路評価・教育 | DC〜30MHz | FG/AWG |
| RF・無線開発 | 〜6GHz | RFシグナルジェネレータ |
| 5G Sub-6GHz | 〜8GHz | ベクトル信号発生器 |
| 5G ミリ波 | 〜44GHz以上 | ベクトル信号発生器(ハイエンド) |
| EMCイミュニティ | 〜1GHz以上 | RFシグナルジェネレータ |
中古信号発生器を選ぶ際の注意点
高機能なベクトル信号発生器や高周波対応のRFジェネレータは、新品で導入するとなると数百万円から数千万円に達することも珍しくありません。そのため、中古計測器を賢く選択することは調達コストを劇的に抑える有効な手段です。ただし、中古品を選定する際には、実務でのトラブルを防ぐために以下の3つのチェックポイントを必ず確認してください。
1. 校正証明書の有無
信号発生器は、すべての測定の「正しい基準」となる信号を作り出す機械です。出力される周波数や電力レベルが国家基準に正しくトレーサブルであることを証明する「校正証明書」や「試験成績書」が付属しているか、あるいは出荷時に新規で校正を取得できる販売店であるかを必ず確認してください。校正の切れた機器は測定データの信頼性を担保できません。
2. ソフトウェアオプションの引き継ぎ確認
特にベクトル信号発生器(VSG)において顕著ですが、5G、LTE、Wi-Fi、Bluetoothなどの特定の通信規格に対応した信号を生成する機能は、ハードウェアではなく内部の「ソフトウェアライセンス(オプション)」として提供されているケースがほとんどです。中古の機体を購入する際、自社が必要とする通信規格のオプションライセンスが内部に残っているか、そのまま自社に引き継いで使用可能かを事前に店側に問い合わせることが必須です。
3. インターフェース(GPIB/LAN/USB)の確認
一世代前の優れた中古モデルを安価に購入する場合、通信インターフェースの仕様に注意が必要です。古い機体では、現在主流のUSBやLAN(Ethernet)ポートが備わっておらず、昔ながらのGPIBポートしか搭載されていないことがあります。自社の自動計測プログラムや制御用PC環境と問題なく接続できるか、あらかじめインターフェースの互換性をチェックしておきましょう。
中古計測器のR4Rへご相談ください
R4Rでは、Keysight、Rohde & Schwarz、Tektronix、Anritsuをはじめとする、世界トップメーカーの高品位な中古信号発生器を多数取り揃えております。専門の技術スタッフが動作確認と徹底した品質管理を行っており、お客様の用途に合わせた最適な仕様選定のサポートも可能です。予算を抑えつつ即納可能な確かな計測器をお探しなら、ぜひR4Rへお気軽にお問い合わせください。
現在取り扱い中の中古信号発生器の在庫ラインナップおよび仕様一覧は、以下のカテゴリページよりご確認いただけます。
【製品一覧はこちら】:中古信号発生器 一覧
まとめ
- 信号発生器は現場の用途に合わせて、汎用回路評価向けのFG/AWG、無線デジタル通信向けのVSG、EMC・受信機評価向けのRFシグナルジェネレータの3つから適切に選定する。
- 電子回路のデバッグ現場では、2チャンネル出力に対応し、コストパフォーマンスに優れたDC〜30MHzクラスのファンクションジェネレータが最適。
- 5Gや次世代無線通信開発では、Sub-6やミリ波帯に対応した広帯域なベクトル信号発生器と、規格に準拠した専用のソフトウェアオプションライセンスが必要。
- 中古信号発生器を購入・導入する際は、データの信頼性を保証する「校正証明書」、各種通信規格オプションの引き継ぎ可否、制御PCと接続するインターフェース規格を必ず確認する。
【関連コラム】
中古計測器の選び方全般については 中古計測器の選び方・買い方 完全ガイド もあわせてご覧ください。

