スペクトラムアナライザの選び方:周波数範囲・ダイナミックレンジ・位相雑音を用途別に解説

「とりあえず広い周波数範囲を選べばいい」は間違い——用途から逆算する3つの基準
「スペアナを導入したいが、どのスペックを見ればいいかわからない」
「EMC試験用と5G評価用では何が違うのか」
「高価な機種と廉価な機種のどこが実際に違うのか」
R4Rでは研究所・電機メーカー・通信機器メーカーからスペクトラムアナライザの選定についての相談を多くいただきます。本記事では選び方の3つの基準と用途別チェックリストを整理します。
スペクトラムアナライザとは何か
スペクトラムアナライザ(スペアナ)は、電気信号の周波数成分と強度を可視化する計測器です。横軸に周波数・縦軸に信号レベル(dBm)を表示し、「どの周波数にどれだけの信号があるか」を一目で把握できます。
オシロスコープとの役割の違いについてはいまさら聞けない!スペクトラムアナライザとネットワークアナライザの違いで詳しく解説しています。
選び方の基準1|周波数範囲
測定したい信号の最高周波数をカバーしていることが大前提です。ただし「広ければ広いほど良い」ではなく、必要な範囲を明確にすることが重要です。周波数範囲が広くなるほど価格が大幅に上がります。
| 用途 | 必要な周波数範囲 |
|---|---|
| 一般的なEMC試験(放射エミッション) | 〜1GHz(CISPR規格の基本要件) |
| Wi-Fi・Bluetooth・LTE評価 | 〜6GHz |
| 5G Sub-6GHz評価 | 〜8GHz以上 |
| 5G ミリ波(FR2)・車載レーダー評価 | 〜50GHz以上 |
| 衛星通信・マイクロ波評価 | 〜26GHz〜 |
※EMC試験の詳細な周波数要件は規格・被試験体によって異なります。
5G開発における周波数帯(FR1/FR2)の詳細は5G・無線開発の現場で必要な計測器セットでも解説しています。
選び方の基準2|ダイナミックレンジ
ダイナミックレンジとは、測定できる最大信号と最小信号(雑音フロア)の差のことです。単位はdBで表されます。
ダイナミックレンジが重要になる場面:
- スプリアス測定:強い搬送波と微弱なスプリアスを同時に測定する。ダイナミックレンジが狭いと微弱成分が雑音に埋もれる
- EMC試験:規制限度値付近の微弱な妨害波を検出する
- 受信感度評価:微弱な受信信号を正確に測定する
| 用途 | 目安のダイナミックレンジ |
|---|---|
| 一般的なRF評価・開発 | 70〜90dB |
| EMC試験・スプリアス測定 | 90〜110dB |
| 高精度な受信機評価・研究 | 110dB以上 |
選び方の基準3|位相雑音
位相雑音は、スペアナ内部の局部発振器の不安定さを表す指標です。単位はdBc/Hz(搬送波から特定オフセット周波数での雑音密度)で表されます。
位相雑音が重要になる場面:
- 隣接チャネル電力比(ACLR)の測定:位相雑音が高いと隣接チャネルの信号に影響する
- 高精度な変調解析:EVM(エラーベクトル振幅)測定の精度に直結
- レーダー信号の評価:近距離クラッターを分離するために低位相雑音が必要
一般的な開発・評価用途では位相雑音は重視されませんが、通信システム・レーダー評価では必ずスペックを確認してください。
その他の重要スペック
解析帯域幅(Analysis Bandwidth)
5G NRなど広帯域信号の変調解析に必要です。FR1(Sub-6GHz)対応なら100MHz以上、FR2(ミリ波)対応なら400MHz〜1GHz以上が必要です。
DANL(表示平均雑音レベル)
スペアナが検出できる最小信号レベルです。値が低いほど微弱な信号を測定できます。受信感度評価・微弱スプリアス検出で重要になります。
EMI測定機能
CISPR準拠の準尖頭値(Quasi-Peak)検波機能があるか確認してください。EMC試験に使用する場合は必須です。EMC試験に必要な計測器についてはEMC試験に必要な計測器は?必須機器リストと選び方もご参照ください。
用途別チェックリスト
EMC試験・妨害波測定
- CISPR準拠の準尖頭値検波機能があるか
- 周波数範囲が1GHz以上か(放射エミッションの基本要件)
- ダイナミックレンジが90dB以上か
- EMI測定用のプリセット・自動測定機能があるか
5G・無線通信評価
- 解析帯域幅が100MHz以上か(FR1対応)
- 3GPP準拠の5G NR解析機能があるか
- 必要な周波数範囲をカバーしているか(FR1:〜8GHz / FR2:〜50GHz)
一般的なRF開発・研究
- 測定対象の最高周波数をカバーしているか
- PC連携・GPIB/LAN制御に対応しているか
- 校正証明書が必要か(校正証明書の詳細はこちら)
スペアナとネットワークアナライザの使い分け
「スペアナとネットアナは何が違うのか」という質問は非常に多いです。簡単にまとめると:
- スペアナ:信号の周波数成分・レベルを「見る」。外部から入力される信号を受動的に測定
- ネットアナ:回路・部品に信号を入力してその応答(伝達特性・反射特性)を「測る」。能動的に測定
詳しくはいまさら聞けない!スペクトラムアナライザとネットワークアナライザの違いをご覧ください。
R4Rの取扱製品
R4Rでは以下のメーカーの中古スペクトラムアナライザを取り扱っています。中古スペクトラムアナライザ 一覧もご覧ください。
Keysight(キーサイト)
N9020A MXAシリーズ・E4440A PSAなど幅広く取り扱い。EMC・5G両対応モデルが豊富。
→ Keysight 取扱一覧
Anritsu(アンリツ)
MS2830A・MS2690Aシリーズ。国内通信メーカーへの導入実績が多い。
→ Anritsu 取扱一覧
Rohde & Schwarz(ローデ・シュワルツ)
FSWシリーズは高位相雑音性能で5G・レーダー評価に強い。
→ Rohde & Schwarz 取扱一覧
まとめ:スペアナ選びの3つの基準
- 周波数範囲:用途に必要な最高周波数を確認。広すぎると無駄なコストになる
- ダイナミックレンジ:EMC・スプリアス測定では90dB以上が目安
- 位相雑音:通信システム・レーダー評価では必ずスペックを確認
「用途を伝えればどの機種が合うか提案してほしい」というご相談もR4Rまでお気軽にどうぞ。


